定年間近に始めた自転車乗り。
体力がついて元気になるとは、すばらしき趣味の副産物!
自転車だけは乗りたくない?
 鉄砲、碁、自転車と、飽きることなく趣味を楽しみ続けてきた作家の伊藤礼センセイ。
中でも自転車は、定年間際の68歳の頃に始めた楽しみ事です。自転車といっても、普通の自転車で街を走るのとは訳が違います。センセイが乗るのはスポーツ自転車。しかも、北海道から四国、九州まで、仲間とともに走り回っているのです。その姿が、雑誌やテレビでも注目されています。
「いえ、私のは本当になまくらでね。70歳の人が自転車に乗ってるっていうだけで話題になっているに過ぎないの。それにね、僕、自転車に乗る奴はバカだな、あれだけは乗りたくないよってずっと思ってました」
謙遜しながら、伊藤センセイは思いがけないことを話し始めました。
「長野の野尻湖に、父がつくった別荘があったんです。湖のそばの、つづら折りになった道のところにありました。肺病が治った頃から僕はそこに行って過ごしてまして、夏になると若い連中がいっぱい来て、貸し自転車で野尻湖一周するんです。うちの近くのまっすぐの道を、自転車がすごいスピードで降りてくるわけ。ところが、ちょうどうちの横で道がカーブするものだから、そこでひっくり返るの。それで、ゴミ箱に突っ込んで血だらけになってうちに来るわけね(笑)。あれだけはやるもんじゃないって思ってましたよ」
しかし、長年にわたって興味が醸成され、ついに自転車雑誌を買って調べるに至った伊藤センセイ。その頃は、折り畳み自転車の記事が目に付いたそうで、“なるほど、自転車を折り畳んで袋に入れて電車に乗れば、どこにでも行けるのだ”と知るや、寝ても醒めても考えるのは折り畳み自転車のことばかり。かれこれ2年ばかり考え込んでしまったのだといいます。
「そうしたら、ある朝スーパーのチラシに自転車が載っているわけ。20インチの折り畳みが3万円…安い。もう、パンパンにふくらんだ風船を針の先でつついたようなものですよ。これだ、と思って買いに行って、ところがあれだけ調べていたにもかかわらず、買ったのは重い自転車。小さくて折り畳めるのに重いというのは本当に腹が立つね。フフフ」
しかし、その自転車で会津に一人旅をしたりと、結果的にはあちこちに出かけたのでした。
自転車が健康をもたらして
最初に買った折り畳み自転車は失敗でしたが、その後、伊藤センセイは次々と自転車を手に入れていきます。現在、所有する自転車は5台。スポーツ自転車のよいところは、行動半径が広くなるところだとおっしゃいます。
「電車とか車とか飛行機と同じ、交通手段になりますね。京都くらいの都市だと、自転車があればだいたい1日で一回りできてしまいます。ただ、仲間と一緒だと行動はずいぶん規制されますね。ここでちょっと止まりたいなと思っても、俺が止まるとなあと思って、止まらずにすっと行っちゃうことも多いです」
年寄りは年寄りらしくと言いながら、いまでは自転車に乗るときは本格的な自転車乗りの格好をすることも。
「山形から秋田まで乗ったときの旅行を、NHKが取材したんです。そのとき、仲間でいちばん若い60歳のヤツが、ピチピチのパンツとか履いて家にやって来たのね。そうしたら、それを見たうちのが、『あんな格好をしなきゃいけない』って。それで急きょ、シャツやらパンツやらいろいろ買い込んで、そういう格好で乗ったところを全国放送されちゃった。恥ずかしかったけど、そんなに悪くもなかったですよ、フフフフフ」
自転車熱が沸騰していた始めの頃は、年に4〜5回は自転車旅行に繰り出していました。当然、そのうち海外でのサイクリングが目標になってきます。伊藤センセイとそのお仲間は、ここ数年来、ドイツへの自転車旅行を計画中。誰かが病気をしたりでなかなか実現しませんが、センセイのことですから、夢で終わるということはなさそうです。
また、自転車は、あるサプライズももたらしました。長くこぐことで体力がつき、病気がちだった身体が、だんだん健康になっていったのです。老いてなお、ますます盛んな遊びへの情熱が健康までもたらしてくれる、こんなすばらしいことはないと思いませんか。
こんなふうに、趣味の世界を楽しんでおられる伊藤センセイですが、内心は思うところもあるようで…。
次回はそんなセンセイの胸の内をうかがってみることにします。 |