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母の記憶へとつながった、日本の礼節思い出してほしい、「贈り物」の光景幼き日、こんな光景を目にした記憶はありませんか。母が白い紙で何かを包んでいる。包んで、そっと手でおさえている。どうやら贈り物の準備らしい…。
山根一城さん(58歳)は、そんな光景に覚えのある一人。ビジネスの第一線から退き、現在「折形(おりがた)」なるものを世に知らしめるべく活動しています。この折形こそ、かつて私たちの母の世代が行っていた、贈り物の包み方なのです。 明治から昭和のはじめにかけて、多くの女学校などでは、作法教科書の中で礼法の基本として、「折形」と呼ばれる贈り物の包み方を学んだものでした。山根さんは自身のセミナーで、折った和紙を押さえる独特の手つきを見た同世代の方が、泣き出してしまったことがあるといいます。「母が折っていた手つきそのままだった」と言われ、自らも涙してしまったそうです。 「折形」を知ればきっと懐かしく思うSTAGE世代も多いはずです。が、簡単なラッピング材料があふれた今ではほとんど使われず、なじみが薄くなったのも事実。しかし、山根さんは「折形は、和紙を使った日本ならではの、世界のどこにもないすばらしい文化」と力説します。そこで今回は、「折形」を通して、日本の美しい和紙の文化を取り戻そうと奮闘する山根さんの活動にクローズアップしてみたいと思います。 思いやりの心が形となり、礼となる折形が生まれたのは、さかのぼること600年以上前の室町時代。3代将軍、足利義光が武家独自の礼法を制定するよう命令したことがはじまりです。折形は礼法の中の一つで、儀式、儀礼に使う贈り物を和紙で包むやり方を指します。将軍、大名、旗本といった限られた上級武家の間でのみ口承されてきました。 しかし、江戸時代になると礼法そのものにさまざまな流派が生まれ、何が正しく、何に根拠があるのかがわかりづらくなってしまった。そこで、将軍家の礼法指南を任された伊勢家の末裔・伊勢貞丈が、2350項目にもわたる礼法を雑記としてまとめたのです。後世の人の手で、それは『貞丈雑記』として出版されました。山根さんが伝える折形の原典も、伊勢貞丈が残した多くの著書の1冊『包結図説』です。 そうはいっても折形とは何ぞや?
一般的には、慶事や弔事などの際にお金を包む、あの包みを想像してもらうといいでしょう。さらに写真を見ると理解が進むのでは。まず1が扇包み、2と3が万葉包みといいます。お金はもちろん、箱に入ったもの、お菓子にお花と、包むものもさまざま。入学祝い包みのように、伝統の形にアレンジを加えたものもあります。 山根さんは、「目的ごとに厳しくやり方が定められ、紙の種類も折り方もそれぞれ違う。こんな繊細な紙の文化は世界のどこを探してもない」と断言します。和紙の美しさを最大限に生かしたこの文化を復活させようと、今、山根さんは講演や展示会などで全国各地を飛び回り、東奔西走しています。 「モノではなく、心を贈るということ。武家社会では、汚れのない紙を使い、自分で物を包み、直接渡しに行った。お礼を述べて手から手へ渡す。これが礼法の基本です。デパートに包ませて、宅急便で送ったりなんてしないんです」 礼法の定義は、前述の『貞丈雑記』に、じつに明確に書かれています。
「礼節ということ、尊き人をば謹み敬い、卑しき人をば侮らず、同じ位の人をば先立てて、我はへりくだるを礼というなり。敬うまじき人をば敬うは、へつらいなり。卑しむまじき人を卑しむるは、傲りなり。へつらいもなく傲りもなく、その身の位相応にして、過ぎたることもなく、及ばざることもなく、良きほどなるを節と言うなり。節の字を、ほどよしと読むなり。良きほどらいを言うなり」 一歩自分を退かせ、相手を敬い思いやる。消費社会にどっぷり浸かっているうちに、主張しなければ損だと思っていたような気がしてきませんか。いつだって、人と人との触れ合いは思いやりの心から生まれるもの。この原点を日本人の心にもう一度取り戻したいと、山根さんは熱き思いで行動しているのです。 次回は、ビジネスマンから現在の活動へと転身した山根さんの思いに迫ります。 |
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