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50代半ばにして思い切った決断ができたのは
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600年以上前から続きながら、太平洋戦争後忘れられてしまっていた「折形」を、再び伝えていこうと活動している山根一城さん(58歳)。和紙産地ともコラボレートし、展示会を開いたりもしています。
しかし、それを“自分の仕事”と見据えて着手したのは、じつはわずか5年前のこと。それまで、山根さんは一貫してビジネス畑を歩いてきました。BMWジャパンでマーケティング部長を、日本コカ・コーラでは広報担当副社長などを務めた経歴をおもちです。なぜ、畑違いともいえる折形の普及に目覚めたのでしょうか。
「父が倒れたときに初めて父の書斎に入って、父の本を全部読んで、これはまずいと思った。父だけが研究していたことが、このままでは日本から消えてしまう。それで、告別式で早々に『私が継承します』と宣言したんです」
父・章弘氏は、武家礼法のひとつである折形を研究・整理し、マスコミを通して発表したり、自宅の教場で全国からやってくるお弟子さんに指導していたそうです。山根さんは、折形を折ったこともなければ、勉強をしたこともなかったというのに、「これは僕がやらなければ」と、大転換を決意したのでした。
当時、危機管理の担当としてストレスの多い日々を送り、体を相当痛めていたことも、その決意を後押ししました。加えて、山根さんはずっとある思いを抱えていました。
「ひとつのプロジェクトを進めていくビジネスを、ゲーム感覚で面白がってきました。でもその一方で疑問ももっていて、僕は『手間ひまかけた本物の価値を楽しむ』ことをよしとしてきた。ビジネスの世界で価値といえばお金でしょう。でもそうじゃないものがある。それは『時間』だったんです」
忙しい合間を縫って、中国茶を極めたり、天文台を自分で作ったり、オーディオに凝ったりと、趣味の世界を十分に愉しんできたのも、この思いがあってのこと。だからこそ、企業という舞台から降りるという、思い切ったことができたのでしょう。
「60歳で定年になってから準備をしては正直遅いと思った。これは自分にしかできないこと。今やらなければ消えてしまうのだから、今思ったことは今やろうと」
自分が「やりたい」ことと「できる」ことには溝があります。それを埋めていくには時間がかかるものです。それから5年経ち、60歳も間近になってきて、少しずつ山根さんの「折形」の活動は軌道に乗りはじめました。会社を辞めることに反対していた家族にも、ようやく安心させられるようになりました。
一方で、山根さんは企業で危機管理のプロとして働いた経験を、後輩に伝えたいと講演会で話す機会も多くなりました。「ビジネスの自分と、文化史を伝える自分。ちょうどよいバランスで働けるようになってきた」と考えます。
そんな今だからこそ、山根さんは会社を辞めた同世代の人たちのことを「本当にもったいない」と話します。
「60代は、知識と経験がたっぷりあり、体力も十分ありあまっている。そして、お金よりやり甲斐に興味をもっています。シルバー世代ではなく『ゴールド』だと思います。それぞれの人がもつ知的な経験が生かせられたら、もっとのびのびと生きられるのではないでしょうか」
誰にでもチャンスはめぐってくるもの。それを手を伸ばして取るか取らないかだと、山根さん。具体的でなくてもいいから、こんなことをやってみたい、こんな生き方ができたらと常に考え、まわりの人に話しているうちに、ふっとつかめる瞬間がやって来るかもしれません。
大きなリスクを背負いながらも、山根さんはそのチャンスに手を伸ばしました。そして、さらなる志で活動を広げていこうとしています。
「折形は日本にしかないすばらしい文化。でも、まだまだ市民権は十分には広がっていない。この文化を、もう一度取り戻したいと思います」と、気概も十分です。
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