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トップページ > エンターテイメント > はじめての碁会所 > 第8回「いちばん上品な碁」

ネットで世界中の囲碁ファンと対局 はじめての碁会所

碁で人と文化を知る

はるかな昔から人の生活と囲碁が深く関わっている。興味深い知恵と歴史を紹介。
(毎月月末頃更新)

「いちばん上品な碁」

新しい年が平穏で、皆様にとって幸多きことを祈ります。さらに、碁を楽しんで脳の健康を増進し、ますますお元気にお過ごしください。

私は4月に入段30年を迎えます。就職して1年で脱サラ。日本棋院のプロ・棋士初段になって30年、早いものです。対局とアマチュア指導、日本棋院の運営支援に明け暮れた日々でした。この10年は執筆の仕事が増えて、囲碁の歴史にも関心を寄せてきました。2年前には長年いた日本棋院の縁の下を出て、以後は棋院運営から離れています。精神的にずいぶん楽になりました。運営にかかわらなければ、あと一段くらい段が上がっていたかと思いますが、悔いはありません。

1977年の同期入段に王銘エン九段(おうめいえん本因坊2期)がいます。低段時代は何度か彼と予選で当たり、15歳で入段した彼と年が9歳違ったこともあってほぼ互角。棋聖戦三段戦の決勝では負かされました。入段後に初めて彼と対戦したとき、獲物を狙う獅子のように、ギラギラと輝いている眼が強烈な印象でした。これは相当な棋士になる、そう感じたことを思い出します。
80年ごろまで日本棋院の地下に卓球台があり、なぜか彼と二人で卓球をして、そのあと食事しながら話をしたこともありました。私は中学高校と卓球部だったのですが、卓球も互角以上でした。

3、4年前、日本棋院8階(事務局)のエレベータ前で、王銘エンと立ち話をしました。私の方から声をかけ、囲碁史に関しても一家言を有する彼の意見を聞いたのです。そのとき、彼がこう言っていました。

「昔(古代)の中国には、きっと色々な碁があったんだよね。中国は広いから。その中で、いちばん上品な碁が日本に伝わったんだと思うよ。
その、今の日本ルールと同じ碁が、どうして中国ではなくなったかって?
それはたぶん、不正防止のためなんだろうね。」

囲碁史について彼と話したのはそれが最初でしたし、私の考えを彼が知っていたはずもないのですが、彼の考えは私とほとんど同じでした。
ただ一つ、「上品な碁」という言葉は私の中になく、印象に残りました。

王銘エン九段は台湾で生まれ育ち、中国ルールで碁を覚えて、だいぶ強くなってから来日。それから2年ほどで入段したと聞いています。多くの台湾出身棋士とちがって経済的に恵まれず、苦労しながら一流棋士の座についた彼は、ガッツ溢れる努力家です。
囲碁普及についても見識ある彼は、日本ルールが入門を難しくしているというのが持論。「台湾では碁が難しいなんて聞いたことがない」「碁盤にたくさん石を置いた方が勝ちなんだから」と彼が言うのを聞いたことがあります。

銘エンさんは、日本の碁を肯定的に評価して「上品な碁」と言いました。むろん盤上の手段や技術レベルのことではありません。
強い人にとって、日本の碁ほど洗練された素晴らしい囲碁文化はない。
私はそう思っていますが、彼も同じ考えにちがいありません。彼も私と同じ日本の棋士です。

(2007年1月作品)

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