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トップページ > エンターテイメント > はじめての碁会所 > 第16回「本能寺、三劫の話(4)」

ネットで世界中の囲碁ファンと対局 はじめての碁会所

碁で人と文化を知る

はるかな昔から人の生活と囲碁が深く関わっている。興味深い知恵と歴史を紹介。
(毎月月末頃更新)

「本能寺、三劫の話(4)」

 

この世の中、誤った情報が流布するのはよくあることです。長い間、常識のように言われながら、じつは事実でないことも珍しくありません。

真実でない情報がなぜ生まれるのか。それはさておくとして、人々の関心を集めたり、歓心を買ったりするなら、個人や組織はその真偽を確かめることをあえてせず、誤った情報を広めてしまう。今日のマスコミにもありがちなことです。

30年前に筑摩書房が出版した『日本囲碁大系』は日本囲碁史のバイブルともいえる全集(18巻)です。各巻の監修者は当時のトッププロたちですが、執筆は林裕(故人)の手に拠りました。日本棋院編集長を経て囲碁記者・評論家になった林は、囲碁史のトップライターとして名を馳せ、多量の著作を残しています。『日本囲碁大系』の刊行は林のライフワークでした。

第1巻『算砂・道碩』の冒頭にこう書かれています。

    群雄割拠・戦乱の世に、一応終止符を打って天下を平定したのは、いうまでもなく信長であり、ここに近世(正確には徳川幕府成立以後)の夜明けが訪れたのであるが、それと時を同じくして、囲碁史の第一ページが開かれたといっても、あながち大袈裟ではないだろう。なぜかといえば、信長によって他の諸芸と同様囲碁も、大いに庇護育成されたからである。(中略)
    信長自身にどのような趣味や嗜好があったか、寡聞にして詳らかにしないが、幸いにも囲碁を嗜んだことは確かで、またその発展に相当の力を貸したことも、前述した通り偽りない事実である。
    それは一介の僧侶にしかすぎなかった日海、即ち後の算砂を入洛後召出し、後年禄まで与えている一事だけで充分うなずけよう。

第1巻が出版されたのは昭和50(1975)年7月。続く第2巻『算悦・算知・道悦』はその2年後、52年7月になってようやく出版されました。同巻末の「人とその時代 2 本因坊算悦・安井算知・本因坊道悦」で、林はつぎのように記しました。

    第1巻『算砂・道碩』上梓後、初代本因坊算砂に関して従来の定説を洗い直さなければならぬ重要な資料が出てきた。(中略)『本山寂光寺誌』を眼にするのは初めてであった。

    この小誌は昭和12年11月にまとめられているので、碁界の人々、少なくとも当時在世していた21世本因坊秀哉名人には贈られたはずである。
    然るに碁界がまったくこの資料を見落としていたのは、迂闊としか言いようがない。

2年半前、本因坊発祥の寺である京都・寂光寺を訪ねた際に『本山寂光寺誌』を拝見し、大川住職の説明を拝聴。私が頂戴した一冊を日本棋院囲碁殿堂資料館に収めてあります。同誌に関する詳しい話は別稿にて。

『日本囲碁大系』第2巻末の(上記に続く)林の述懐をさらに読み進むと、酷く驚かされます。

    かねてわたしは、信長が碁を打ったこと自体に疑問符をつけ、算砂(日海)を寵愛したなどというのは作り話ではないかと疑ってきた。
(続く)

(2007年9月発表作品)

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