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赤ワインと グラスの美しい関係

[語り] 社団法人・ 日本ソムリエ協会会長 熱田 貴さん
取材・文/松原京子 写真/森谷則秋(物)・保坂彩樹(人物)

グラスにこだわれば、赤ワインがもっとおいしい。
最近は、家庭でもワインを飲むシーンが増えてきた。ワインに関するうんちくは数々あるが、ここでは、赤ワインをおいしく飲むためのグラスを紹介。 カジュアルスタイルで気軽にワインを楽しんでみては?

ワインの赤は、人に安らぎを与え、エレガントにさせる色

色は自ら音を立てたり言葉を発したりすることはないが、私たちに何かを訴えかけている。

「赤は本来パンチのある強い色。でもワインの赤は、人に安らぎを与えてくれる色、ホッと心落ち着く赤です。焼酎やビールを飲んだときにグチを言いたくなっても、ワインを飲んだときには言いたくならない。うちの店にいらっしゃる方の会話を聞いていても、旅の話、最近読んだ本の話、オペラの話など、文化的で楽しい話ばかりを耳にします。

『ワインは飲む人を瞬時に詩人に変えてしまう』と言いますが、まさにその通り。色はもちろん、香り、味と三拍子揃っているからこそ、気持ちよく飲めるのでしょう」とは、熱田貴さん。

ワインが体に入ると気持ちがエレガントになって楽しい話が涌き出てくる、あるいは心が大らかになって些細なことに思い悩んでいたことなど忘れてしまう。ワインの赤い色にはそんな不思議な力が秘められているのかもしれない。

ワインとグラスを持って外へ。太陽の下で楽しみたい

「ワインは赤でも白でもロゼでもそれぞれ深みのある綺麗な色をしています。その色彩や味を、ときには外に出て味わってほしいですね。ワインの味を引き出すには温度がとても重要ですが、太陽の下なら多少妥協できる気持ちのよさがあります」

熱田さんがこう言うのは、かつてのヨーロッパでの体験から。四年間の滞在中、行く先々でさまざまなワインをその土地の流儀で味わったそうだ。ときには仲間と大きなガロン瓶を持って車で繰り出して回し飲みしたり、山あいの景色を見ながら中味がビールかと見間違うようなジョッキで飲んだり…。

「オーストリアのウィーン郊外にグリンツィング村、別名ベートーベン村という村があります。話は200年も前にさかのぼりますが、時の皇帝ヨゼフ2世が、『ぶどうを育ててワインを造っている人には税金をかけない。そのかわり緑に囲まれた塀の中で旅人にワインと食べ物を安く提供しなさい』と言ったんです。だからグリンツィングには、ワインを外で飲む習慣があります。ラベルにこだわったり、うんちくに耳を傾けることなく、ただ毎日楽しく飲むワインがまさに人生の飲みものなのです」

料理は屋外で食べるとおいしく感じる、それと同様、太陽の下に真っ白いクロスを広げてワインを飲む楽しさを知ってもらいたいと言う。

ワインの味を引き立てる グラスにこだわりたい

気持ちまで緩やかにさせるカットの美しいグラスは、シャンデリアやキャンドルの炎の元で使いたいもの。グラスに入れておくうちにおいしくなるということはないので、ちょうど飲み頃のワインを入れて(右)。

ブルゴーニュなら、空気に触れさせながらデリケートな変化を楽しめる金魚鉢のようなラウンドをもったタイプのグラスを。ボルドーなら、その重めの香りと味わいを楽しむためにエッグ形のグラスを(左)。

 

「ただ、グラスだけは妥協したくない。そのワインに合ったグラスを使ってほしい」と熱田さん。

「たとえばドイツのフランケン地方のワインは酸がとても強いので、グラスではなくて陶器、日本の湯のみ茶碗のようなもので飲みます。これで飲むことによって酸が和らぐのです。ハンガリーやオーストリアの土着的なワインは、素朴な素焼きの器で飲むこともしばしば。フランスやイタリアではさまざまなタイプのグラスが使われます」  

また、デキャンタは、ボトルから移すことによってワインが眠りから覚めるとされているが、単品のぶどうで作ったワインはやらない方がいいとのこと。

飲むワインによってグラスを変え、そのグラスによって味わいが違ってくる、そんな視点でワインとグラスの関係を見直すと新しい発見があり、楽しみも広がるはずだ。そこで熱田さんにお勧めのグラスをうかがってみた。

「私個人の好みですが、強いて言えば、ロブマイヤーとリーデルです。どちらもオーストリアのもの。ロブマイヤーは比較的高価なグラスですが、使ってみれば私が下手な講釈を言うより、そのよさがわかってもらえるはず。リーデルはロブマイヤーに比べて少しカジュアルですが、おいしさを引き出すグラスとしてレストランなどでも安心して使われています。フランスにはカットの美しいグラスもありますが、これはシャンデリアやキャンドルの炎があってこそ映えるグラス。 誰とどこで飲むかでグラスを変えるのも楽しいでしょう」

グラスが変われば味が違う、 グラスで楽しむ赤ワイン

赤ワインは飲む直前ではなく、前もって空けておくと、ワインが空気に触れておいしくなりますが、早くおいしく飲むためには、デキャンタに移すのも一方法。空気に触れる面が大きくなるので、熟成も早まります(右)。

夫婦で必ずしも同じグラスを使わなくてもOK。1本のワインをふたつの違うグラスに注いで、味わいの違いを楽しんでみても。どちらがおいしいと感じるか、そんな話をしながら……(左)。


 

リーデルは『機能は形の母である』の信念のもと、ワインの蔵元、生理学者、リーデルの三者が研究を重ね、それぞれの銘柄に合ったグラスを開発している。

「シャツに合わせてネクタイを代えるように、ワインに合わせてグラスを代えるのが、おいしいワインの飲み方です」 と、グラスウエアショップ『ザ・ウイスキー』のオーナーの二唐武平さん。  

一方、ロブマイヤーは、ウィーン王宮などのシャンデリアを長年手がけてきた会社で、ワイン好きなら一度は耳にしたことがあるはず。
「鉛を含まないカリクリスタルを使用し、ひとつひとつが完全な手作り。透明度の高さ、限界を極めた薄さ、やわらかさ、口当たりのよさが特長です。屋外やホームパーティーなどで気軽に使うには、ステムの短い背の低いタイプを」  とは、ロブマイヤー日本総代理店『株式会社ロシナンテ』の志村喜世美さん。

「グラスを扱うときに注意したいのは洗い方。ワインが入るボウルの部分とステムとの接点が1番割れやすいので、ボウルを持つといいですよ。洗剤を使うと匂いが残るので、手や口の脂がついた部分のみにして、あとは水か湯で洗います。最後にグラス用のふきんで磨き上げると繊維が残らず傷もつきません」  ワインの銘柄や値段を気にするのではなく、グラスにこだわりグラスを楽しむ、これが赤ワインの本当のおいしさを味わう秘訣。熱田さんは言う。 「自分だけでなく、回りにいる人が『あのグラス、いいなあ。あのワイン、おいしそう』と思えるようなグラスと楽しい時間を過ごしてもらいたいですね」

 

 

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