百貨店の激戦区、東京・新宿。6月の地下鉄・東京メトロ副都心線開通により、競争はさらに激しくなるといわれています。"新宿戦争"とも呼ばれるこの激戦区で、中高年層をターゲットにした独自の戦略を取り、高い評価と注目を浴びているのが京王百貨店です。1961年に設立され、新宿店と東京多摩地区の聖蹟桜ヶ丘店の2店舗で営業。2008年3月期まで3期連続で経常最高益を計上するなど、中高年層に特化した独自路線が奏功し、好調な業績を維持しています。ターゲットを絞った理由と成功の秘けつ、そしてシニアに対しどんな思いで営業展開しているのか。2008年6月24日に社長に就任した、同社の山本敏雄社長にお話を聞きました。

山崎:
中高年にターゲットを絞るという御社独自の戦略は成功モデルとして注目を集めていますが、この戦略にはどのような背景があったのでしょうか。
山本:
もともとの話をすれば、十数年前のことになりますが、当時各百貨店や取引先が力を入れていたのは、ヤングでした。そのころの流れは、売り場面積はヤングを増やしてミセスを縮小していくこと。中高年向けはファッションとしてとらえられていませんでしたし、アパレル各社がミセスよりもヤングのブランド開発に力を入れていた時代です。
そうした中、新宿では島屋さんの南口出店により、いわゆる新宿百貨店戦争が起こり、当社の独自の軸足をどこに置くかが社内では議論の的となりました。弊社は新宿地区の中では売り場面積が狭い。どこかにターゲットを絞っていかないとすべての品ぞろえが中途半端になってしまうという思いがあって、カード顧客のデータなどを基に、じゃあどうしようかと考え始めたのが、そもそものスタートでした。
伊勢丹さん、島屋さんはヤング、小田急さんはキャリアを中心にブランドを強化していましたから、オリジナリティを発揮して競争を生き残っていくにはミセスに特化していった方がいいんじゃないか、そんな流れができてきたわけです。
山崎:
当初のお考えも、その時々で微調整しながらやってこられたことと思いますが、その後はどのように推し進めていらっしゃったのでしょうか。
山本:
シニアと呼ばれる年代は、十数年前は50代以上を指していたかもしれませんが、今の50代はシニアと呼ばれたくない人たちです。各年代が持っている感覚が十数年前とはかなり変わってきています。また、シニアという言葉でくくったとしても、世代が違えば感覚も違うわけで、そうした変化や違いに敏感に対応して、品ぞろえに反映させるなどしていかなければいけません。
大事なことは、ターゲットとしたお客さまのご要望がどこにあるのかをきちんと理解すること。それは常に追い求めているつもりです。
山崎:
御社の場合は、概念だけではなくお客さまが実際何を買ったのかをきちんと分析して品ぞろえに反映させている。見るべきものをしっかりと見据えて取り組まれている点で、他に比べて一日の長がある、そんなふうに感じていますが、いかがでしょうか。
山本:
ありがとうございます。さらにもう一つ言わせていただくならば、全館がシニア世代にライフスタイルを提案できるようにしていくことがポイントになるだろうと考えています。ファッションだけでなく、食生活や住まい方、あるいは余暇の過ごし方まで深く考えて、そこにどのようなニーズが存在するのか仮説を立て、提案していくことですね。

山崎:
売り手だけでなく、作り手のメーカーさんも真剣に細かく物づくりに取り組むことができたら、さらに効果的なんでしょうね。
山本:
たとえばブランド発表から10年たったから若返りを図りたいという婦人服のメーカーさんがあって、出来上がったものをみると、デザインがみんな細くなるんですよね(笑)。ウエストまわりや二の腕などを気にするシニア女性が多いですから、そのデザインでは無理ですよと言うんですが、メーカー側はこうしないと若く見えないんだということになる。
われわれから情報提供しなくてはいけない面もありますが、メーカーサイドも感覚だけでなく、現場に出て今お客さまが何を望んでいるのか体感することは大切だろうと思います。
山崎:
売り場でお客さまの声を直に受け止めるのは、百貨店としては当たり前のことかもしれませんが、それがメーカーに伝わるかどうかは確かに重要なことでしょう。
山本:
30代のヤングキャリアをターゲットにした売り場でも、実際の購入者は40代50代が多かったりするものです。価格も安いしいろいろな着回しができそうだから、サイズさえ合えば本当は着たい、そんな思いで購入されるのだと思います。こうした実際のニーズをとらえて、デザインをどうする、サイズをどうすると考えることは非常に重要で、さまざまな感覚、ライフスタイル、嗜好性に対応するために、メーカーさんと一緒に取り組んでいかないといけないところでしょう。
山崎:
ニーズにフォーカスした売り方こそ、お客さまに受け入れられる方法なのかもしれません。そういった意味で、御社は品ぞろえやサービスの細部に至るまでシニアを意識しているところも、評価を得ている秘けつではないでしょうか。
山本:
数年前に1階の化粧品売り場を改装したとき、化粧品会社各社さんはカッコいいデザインの売場を提案してきました。たとえば、カウンターのほとんどのイスがハイストゥール。でも、シニアの方が望むイスは違うのではないか、と注文をつけて約4分の3をローストゥールにしてもらいました。
そういった、お客さまにとっての安心感や見えないサービスに心を砕くのも大事なことで、通路幅はゆったり取る、床には滑りにくい素材を使う、エスカレーターのスピードは遅くする、見やすい色や文字サイズの大きいポップを使う、など意識的にやっています。
ただし、見た目におしゃれというのは時に相反する。これが難しいところです。だれでもカッコいいところで買いたいですもんね。
山崎:
私たちはシニアのマーケット専門企業として、さまざまな商品開発をお手伝いしていますが、シニア向けはカッコよくなくていいと思っていらっしゃる企業様が少なくありません。でも、それは大間違いで、実はシニアこそ、おしゃれとかカッコよさには敏感なんですよね。だからといっておしゃれに作っただけではシニアに受け入れられず、便利さとの兼ね合いも必要です。
山本:
確かにその通りで、どう折り合いをつけるかが難しいところです。これはすぐに答えが出せるものではなく、ずっとやって肌で感じるもの、あるいは経験のなかで蓄積していくものなのかもしれません。
|